happykobe2005-10-16

人間何かになりたがるということは、それ自体意義のあることでありますが、然しそれは決して第一義ではありません。成(な)る可(べ)く潜在的生命を全うする。言い換えれば、無限定でありたいというのが生命本然の姿であります。その意味ですでに成長する、大人になるということそれ自体警戒を要することではあります。
子供の時には、宗教的素質も哲学的要求も芸術的本能も、あらゆる能力が渾然として含蓄されておるのでありますが、それが大人になるにつれて一部分の成長のために他は皆吸収されて無になってしまう。甚だしい自己限定をしてしまうわけであります。だから就職するということは芽出度い事には違いありませんが、又反面から言えば区(く)々たる(通りいっぺんの)一世渡り人になる、悲しむべきことでもあるわけであります。その意味で浪人生活は無限定であって、お粥くらいはすすれるということに満足しておればとらわれることなく自由です。こういう気持を以て職業人になって貰いたいものであります。